"自然と共に生きる" 21世紀の暮らし方

山崎 美弥子

MIYAKO YAMAZAKI

山崎 美弥子

現代美術作家
東京生まれ。2004年、システムに疑問を抱き、マテリアルな都会での作家活動からみずから退く。同年、太平洋で船上生活を始める。現在ハワイ/モロカイ島に在住10年。ハワイアナを学び、等身大のサスティナブルな生き方を実践。今も水平線をカンバスに絵描きながら、心理学者の夫レビーと2人の娘達、きらかい&たまらかいと暮らしている。

http://molokai.jimdo.com/

書籍 「モロカイ島の贈り物」産業編集センター 他
展覧会「Love'n Pieces 」ワタリウム美術館 ON SUNDAYS
   「海と空の結婚式」hiromiyoshii
   「GIRL!GIRL!GIRL!」東京オペラシティアートギャラリー
   「Cafe in Mito 2004」水戸芸術館現代美術センター 他

ピザ屋の青い家

photo-9島の朝。

水平線の見える窓に、小鳥のさえずりとともに風が届いています。

この家があるアアヒ(サンダルウッド)通りの斜め前の家、

それは古ぼけた木造の宿屋でした。

宿の名は「サンダルウッドの場所(アアヒ・プレイス)」。

…島の体温、赤土をまぶした一本道のハイウェイを走る時の匂い、

海と空が滲んだ境界線の色、ストロベリーミルクをこぼした夕刻時の風景、

島の夜のしじま(静寂)、マウカ(山側)に響き渡る小鹿の鳴き声、

からだのちからをすっかりぬいて、波に浮かべた自分の魂。

通りに散った花の赤。

…それらひとつひとつを丁寧に片付け、「思い出」と名づけると、

旅人たちはスーツケースにだいじに閉まって持って帰っていきました。

海を見渡す坂。

初老の宿屋の夫婦は宿を閉め島を去り、

この島でたった一軒のピザ屋の男がこの家を買い取りました。

男には妻と息子がいて、跡形もみせず、家を青いペンキで塗りました。

青い壁。白い窓枠。

ピザ屋はキアヴェの大木を切り倒し、そのかわりに初な青い小花を咲かせました。

古ぼけた宿屋の面影はもうありません。

ピカピカになった青い家は、それでもあの思い出たちを、

青ペンキの下に潜むその素肌に、しっとりと刻んでる。そう、今も。

 

 

青小花の門をぬけ、ピザ屋の白クルマが坂を下ってゆきました。

光る朝のことでした。…一段と光る、その朝の。

 

 

 

ヒカリノナ

photo-703



レビーとわたしは船上生活をしていました。
それは「青」の日々でした。来る日も、来る日も…。

波の上。

夜になると、黒空に浮き上がるアンカーライトの赤を見つめました。
赤い光の一点は、南へ北へ…北へ南へ揺られます。
まるで平衡感覚を失った酔いどれ星のように。
あるいはメロウな音楽家のメトロノームのように。

潮にぬれた雑音混じりのスピーカーから、深くストレートに流れ込むメロディ。
さざ波のリズムと混じりあい、わたしたちの鼓膜の奥まで。
浸透する、優しい白緑(びゃくろく)の水のように。
若くこの世を去った、あの歌い手の曲。
永遠にこの世界に残した女性(ひと)、
スモーキー・グラスのように曇って透き通るその歌声だけを。

そう、島のひとでは無い異国のひと。遠い地のひと。



…島では命を身ごもると、落ちた眠りの夢の中で
その命の乗り船となる肉体に、授けられる名を待つといいます。

でも時に、待てどその名が与えられないなら、
その小さな命の、母の母にあたるひとが、天から受けとりその名を贈るのです。

島の子どもたちに授けられ、贈られたかずかずの名。
光の名。


…夜は去り、まあたらしい青が産まれます。繰り返し繰り返し。

青い名。赤い名。黄色の名。
まぶしい諧調の始まりとともに。

今、上陸です。

にじのうまれるところ

photo-730

「わたしはこの世界中で一番リッチな女の子だわ。」


ごくあたりまえの島の家庭に生まれ育ったというアンティ。
少女時代のアンティは、いつでもそう思っていた…とわたしに語りました。
そして半世紀をゆうに、数十年も過ぎた今でも、その思いに変わりは無いと。

…リッチな女の子。
それは、金銀や絹、ダイヤモンドをたくさん持っていることではありません。

まるで、ふわふわのふくらんだコットンキャンディーを頭にのっけたみたいな
夢のような白髪をたたえて、島の歌を歌うアンティ。
その響きに満ち満ちるユーフォリア。

光るビリジアンの山々、
ウルトラマリンとセルリアンの空と海、
彼女の、少女時代の記憶の背景にあふれる色と色。

生まれた時から知っていた隣家の青年へと嫁いだと、アンティは語りました。
十二ヶ月が過ぎ去るたび、島のふたりの食卓の、プレースマットが増えました。
高いイス。低いイス。

ふたりは一緒です、変わること無く。
この島中のこどもたちから、アンクルとアンティと、
そしてトゥトゥ(おじいちゃん/おばあちゃん)と呼ばれるようになった今も。

蒔かれた種は、七つ色。
バックヤードにプエオ(梟)が訪れる。
誰にも目撃されること無く。
そうして届けられたのは、目には見えない「極上」でした。

…その日の暮れの勝手口へ。

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